水溜りのホップロック


   04

 晩ごはんは毎日食べる。朝ごはんと昼ごはんは、ときどき。お金はないはずなのに、エンはどこかでお弁当やおにぎりやサンドイッチやお菓子、それにペットボトルのお茶や水を手に入れて帰ってくる。きっとエンは何かしらの仕事をしてお金を稼いでいるのだ。でも、不登校の高校一年生を雇ってくれる人なんているのだろうか?
 わたしにとって実際のところエンは未知数だ。そもそもなぜ、わたしはエンと一緒にいるのか。一緒にいたいから、いるのだ。それでいいと思っているものの、奥歯に何かが挟まったような、そんな奇妙な違和感を抱いているのも事実だった。
 エンとわたしは侘しいごはんを食べ終えると、栄養補給のためのサプリを飲む。エン曰く、からだの機能を維持するため必要なものらしい。わたしたちは朝ごはんも昼ごはんもあまり摂らないから、栄養のバランスを保たないときっと栄養失調になってしまってすぐに死んでしまうのだろう。そう考えるとゾッとする。誰も知らない。誰も気づいてくれない。閉鎖した屋上遊園地でヒトが二人死んでいるなど。群がるカラスと異臭とが、わたしたちの存在意義になってしまうなどと……。
 ぷしゅっ! という小気味良い音がわたしの思考をふいに遮る。エンはビールも買ってきていたらしい。喉を鳴らしてごくごくとビールを流し込む様は、まさに「一仕事終えた後の一杯」という風体だった。
「ぷっはー」
 というとエンはビール缶をわたしの方へ突き出し、
「スイリも飲むか?」
「わたしはいらない」
「そうか」
 そう言うとエンは再びビールを喉に流し込むのだった。
 お酒の入ったエンにつられてか、気分の良くなったわたしたち二人は意味もなく新幹線の乗り物の線路の上で踊ったり、パンダの上に立って歌ったり、なんだかもう、何もかもがどうでもよくなるぐらいにはしゃぐ。でも毎日ははしゃがない。はしゃぐときもある。その周期は不定期で、はしゃがないときは決まって体調が悪いのですぐに眠ってしまう。
 今日は体調のいい日だ。一通りはしゃいだわたしたちはその熱も冷めやらぬまま、ふたり抱き合って唇を重ね合い舌を絡ませ、小さなベンチの上でセックスをして眠る。
 わたしは本当のところセックスなどしたくないのだけれど、エンが求めてくるので仕方なく体を明け渡す。拒むことはない。エンがわたしの体と繋がることを望むのなら、わたしは彼の望みを叶えてあげるだけ。
 わたしだって気分が高揚しているために、感じていないと言えば嘘になる。物語に描かれているような娼婦の女の子のように、自分の意識を遠くに飛ばすことなどできない。
 セックスを楽しんでしまっている快楽の気持ちと、嫌だ、やりたくないという抵抗の気持ちがない交ぜになって、相反する気持ちどうしがぶつかり合って混ぜこぜになって、ぐちゃぐちゃになって、ドロドロになって、ベトベトになって、深海に引きずり込まれるように上下左右がわからなくなって、天井を飛ぶ鳥のようにふわりとした高揚感があって、一対のオスとメスになって……、わたしたちは、眠る。
 
 
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