水溜りのホップロック


   05

「このデパートは一昨年潰れた。おれたちは大体その頃からここの屋上遊園地に入り浸っているわけだ。屋上遊園地はこのデパートが潰れる半年ぐらい前に閉鎖していて、ほとんど廃墟と化していた。閉鎖と同時に屋上へはエレベーターで行くことができなくなっていて、階段もロープやなんかで封鎖されていたけど、そんなものはまるで意味をなさなかった。屋上へのドアの鍵なんて簡単に壊せる代物だったからな。それにデパートが潰れてからも遊具はそのまま残っていたし、自動販売機もついこの間まで残っているぐらいの杜撰な管理だった。ほら、見ろよ、取り壊しの目処もまるで立たずに、こうやって什器がガラクタのように放置されてるこの廃墟ビルのワンフロアをさ。社会から取り残されたビル。世界から取り残されたビル。おれたちにソックリだ。何の生産活動もせず、誰とも関わりを持たず、社会からつま弾きにされてる。ここにあるだけで迷惑って感じだ。どの階に行っても無残に空虚を残すのみで、各階連絡のエレベーターはもう動かない。おれたちに本当にソックリだと思わないか? この心の空っぽを一体誰が埋めてくれるっていうんだ? おれはスイリの心の空っぽだって完全に埋めてやることはできないし、スイリだっておれの心の空っぽを埋めることはおそらくできないだろう。だったら取り壊すか? 取り壊して、廃棄処分にして、世界の記憶から抹消されるか? 新しく建て直すならいいわけだ。ピカピカの壁面に最新の耐震構造、エレベーターだって広くてでかいやつをいくつも入れて、屋上遊園地なんていう旧時代の遺物は取っ払っちまってテニススクールでも何でも開きゃあいい。嫌な過去は抹消して、これからの時代を作っていく。でもそんなことがおれに可能だろうか? おれはどうして学校へ行かなくなってしまったんだ? おれはいつから努力することをやめてしまったんだ? おれはいつから、はみ出し者になっちまったんだ? スイリはどうなんだ? 学校へ行かなくなった理由、覚えているか? ああ、いや、話さなくていいんだ。心の空っぽを共有するなんて、負け犬が傷を舐めあっているみたいでひどくみじめだから。結局理由の相対化なんて不可能なんだよ。他人にしてみれば何だそんなことっていう理由でも、本人にとっちゃ絶対的なんだからさ。ああ、そうか、だからおれは頑張るのをやめたのか。いくら努力しても認められないから、嫌気が差したんだろう。いや、違うか……? くそ、覚えてねえ……。思い出せねえ……。最近やたらと物忘れが激しいな。いっそこのまま何もかも忘れてしまえればいいのに。このデパートの存在みたいに。このデパートの屋上遊園地みたいに。何もかも」
 そう言い捨てると、エンは床に落ちていた金属片か何かを感情に任せて思いきり蹴り飛ばした。蹴り飛ばした何かは遠くまで転がっていって、向こう側の壁に当たって跳ね返った。
 忘れ去られた人々の営みの残骸に、かんからからーんという軽い音がこだました。その音の軽さが今のわたしたちそのものを物語っているようでひどく嫌な気分になったけど、わたしたちは何も言わず、何も考えず屋上へと戻った。
 
 
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